「2年縛り」の件ではやや後手に回った感のある総務省(関連記事)ですが、「総務省は2年縛りだけやってるわけじゃないんだぜ」と言わんばかりに新たな動きを見せているようです。
格安SIMへの乗り換え促進が今ひとつ進まない理由を「通信速度」と見た総務省は、速度差別を禁止することを義務化するための省令を作るようです。
このページでは、この動きと周辺法令について解説しています。
概要
※総務省(Google Mapより)
これまでの経緯も含めてざっくり説明するとこんな感じです:
- 総務省は大手携帯電話会社(=docomo、au、SoftBank)に対し格安SIM会社へ回線を提供する際、通信速度を遅くするなどの「差別的行為」を禁じるために省令を改正する。
- 総務省の有識者会議にて、格安スマホ会社関係者が揃って通信速度が大手と比べて遅くされている旨意見が出ていたため。
- 具体的には、格安SIM会社に対して通信速度などで不当な差別的扱いを行わないことを約款に記載するよう義務づける。
- 総務省は「差別の禁止を明確に定めることで、通信速度への疑念を払拭することができる」とコメント。
詳細解説
もともと「電気通信事業法」にて、大手キャリアが格安SIM会社に対し自ら(大手)の利用者に比べて不利な条件を提供した場合、約款変更命令を出せるという法令があります(第三十四条の3)。
(省略)
3 総務大臣は、前項(第八項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定により届け出た接続約款が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、当該第二種指定電気通信設備を設置する電気通信事業者に対し、相当の期限を定め、当該接続約款を変更すべきことを命ずることができる。
(中略)
四 特定の電気通信事業者に対し不当な差別的な取扱いをするものであるとき。
このような法令があるため、そもそも不当な行為(通信速度を遅くするなど)を行うと何かしらの処分・業務改善命令を受けることになります。
総務省はこの法令に「義務化」を付け足すような形で動いていると考えられます。
期待されること
現在格安SIM会社は揃って昼間の通信速度が遅いという問題がありましたが、今回の件を機に大きく改善される可能性があります。
でも、もし今回の件で昼間の速度が改善されたら、もともと大手キャリアが格安SIM会社にわざと速度が落ちるような細工をしていたことになるのですが…。
「昼間の通信速度」を理由に格安SIM会社への乗り換えを敬遠しているのであれば、省令改正後まで待って速度が上昇してから乗り換えるのも手かもしれませんね。僕は今すぐ乗り換えることをおすすめしますが…
大手キャリアの反撃は?
この法令・省令に対し、大手3社は何か対策を施さないかというところは気になります。
大手キャリア側の身になって考えて簡単に浮かぶ反撃について、そしてその反撃の可否について考えたいと思います。
「仮病作戦」は?
例えば「なんか調子悪い…」という名目で速度を落とすなどです。
ただ、このような不合理なやり方で速度を調整すると、これまた電気通信事業法によって業務改善命令を受ける対象となってしまいます。
総務大臣は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、電気通信事業者に対し、利用者の利益又は公共の利益を確保するために必要な限度において、業務の方法の改善その他の措置をとるべきことを命ずることができる。
(省略)
二 電気通信事業者が特定の者に対し不当な差別的取扱いを行つているとき。

「このアンテナは◯人用なんだ作戦」は?
じゃあ「これ以上の格安SIMを受け入れない!」という策もあるかもしれませんが、これも電気通信事業法第三十二条によってできないものとなっています。
電気通信事業者は、他の電気通信事業者から当該他の電気通信事業者の電気通信設備をその設置する電気通信回線設備に接続すべき旨の請求を受けたときは、次に掲げる場合を除き、これに応じなければならない。
一 電気通信役務の円滑な提供に支障が生ずるおそれがあるとき。
二 当該接続が当該電気通信事業者の利益を不当に害するおそれがあるとき。
三 前二号に掲げる場合のほか、総務省令で定める正当な理由があるとき。
(第一種指定電気通信設備との接続)
要は…MNO会社は新たなMVNO会社から電波を借してくださいと言われたら、合理的な理由がない限り貸さないといけないルールになっています。

抜け道がある…?
しかし、ニの「当該接続が当該電気通信事業者の利益を不当に害するおそれがあるとき」は気になる文章です。
「これ以上貸したら弊社のユーザー様の通信速度に支障をきたすので…」という名目で貸さないという手は、理論上可能のような気がします。
ただし、支障をきたしていることを示すデータを提示する必要がありますが…
まとめ
法律で固められているおかげで、悪巧みはできないものですね(笑)
総務省は携帯電話の月額料金の低価格化、そして選択の自由化に向けて積極的に動いています。
最近は官房長官も会見にて「もっと値下げできるでしょ、4割くらい」という旨の発言をされるなど、何かと槍玉に挙げられている大手3社(と総務省)ですが、彼らの今後の対抗策が気になるところです。

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